特殊詐欺に遭った被害者の多くは、家族や友人に相談をすることなく、詐欺業者の説明を鵜のみにして被害に遭っています。全く疑いの気持ちを持っていないために、誰かに相談をしたほうがいいのではないか、という発想自体を持つことができずに、犯人グループの指示従って行動してしまっているのです。
そして、被害に遭った人は、「まさか自分が被害に遭うとは」という気持ちが強く、誠に気の毒なことに騙された自分自身を「自分は馬鹿だ」と非常に強く責めています。
被害者の多くは、これだけ世の中で注意喚起がされているにもかかわらず騙された自分を愚かであると恥ずかしく思い、この被害の事実を隠そうとする傾向が非常に強いといえます。そして、この詐欺被害を隠すという態度は、社会やコミュニティに対する範囲にとどまらず、自分の家族や配偶者に対しても、向けられることに注意が必要です。
騙されてしまった人は、自分が詐欺の被害に遭った事実を話せば、家族や配偶者から「なんでそのような話に騙されたのか?」と非難を受けることを予想し、被害の事実を言い出すことができない状態で悶々と日々過ごしているのです。
警察庁が発表した平成29年度の被害総額は約400憶円です。しかし、以上のような被害者心理から、この被害総額は、実際の被害額を反映したものではないとみるべきです。400億円の被害は氷山の一角にすぎません。
日本弁護士連合会では、特殊詐欺の被害に遭った人に対してアンケートをとって、被害者の被害心理を分析していますが、この分析の結果からも、被害者の多くが被害の事実を隠す傾向が非常に顕著であることが分かっています。
そのため、実際の被害金額を考える場合、警察に被害申告をする人は、全体の被害者でいえば、むしろ少数派であると考えるべきです。であるとすると、我が国における特殊詐欺の被害件数は、少なく見積もっても1500億から2000億であろうというのが私の個人的な予測です。
なお、被害者がどのような属性の人であるかについては、圧倒的に高齢者が多いことはもちろんですが、実は過去に同様の詐欺被害に遭ったことがあるという人が少なからずいます。このような詐欺被害が繰り返される理由は、架空請求業者が名簿等の入手段階で、このような人をターゲットにしていることに起因するのですが、過去にも詐欺被害に遭った人の場合は、「また騙されてしまった」という自己嫌悪を含む羞恥心が強烈に働くためにますます被害の事実を打ち明けられなくなるという心理があります。
弁護士としての立場から言うと、残念ながら、詐欺の被害に遭いやすい性格、性質の方は一定割合存在します。
このような人が被害に遭わないようにするためには、本人が十分に注意することも大事ですが、家族や周囲の人が常に注意を払うことが必要です。そのためには、まずは被害事実の把握が大事ですので、不注意から詐欺被害に遭ってしまったからといって、被害者を責めるのではなく、被害者の気持ちに寄り添うことが重要です。
被害者らのアンケートでは、詐欺行為で財産的被害を受けたことに対するつらさを訴えるもののほかに、詐欺被害に遭った後に家族などから騙されたことで深く傷ついた、という二次的被害を訴えるものもあります。
特殊詐欺による被害は決して他人事ではなく、あなたやあなたの家族が現実に直面している問題です。もしかしたらあなたのお父様、お母様も、もう架空請求の被害に遭っているかもしれません。
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