民法では詐欺の被害に遭った場合には、被害者が取り消しの意思を表示すれば、被害者はお金の返還を受け取ることができることになっています。
しかし、詐欺の被害に遭ってしまった場合、必ずしも犯人からお金を回収できるとは限りません。特に特殊詐欺の場合、例外的な場合を除いて損害を回復する手段として民事訴訟は選択肢として現実的ではない場合がほとんどです。
なぜ、詐欺の被害に遭った場合に、だまし取られたお金を回収できない場合があるのでしょうか?
1.詐欺犯人の素性が分からない
まず、詐欺被害に遭ったとしても、詐欺の犯人がどこの誰だか分からない、ということが珍しくありません。あなたは詐欺犯人の話を信用してお金を支払ったかもしれませんが、そもそも嘘はお話の内容だけではなく、詐欺犯人の素性も嘘かもしれないからです。特にインターネットでのやりとりでしか連絡を取っていないとか直接面談したことがない(電話でしか話をしたことがない)といった事案であると身分を偽られている可能性が高いといえるでしょう。
民事訴訟を始めるためには、まず相手方に訴状を送達する必要があります。ところが、相手方の素性が分からないとなると、民事訴訟を起こそうにも、訴状の被告にだれを設定すればいいのかわからないわけですから、民事訴訟を起こしようがありません。詐欺師の素性が分からないということになると民事訴訟による解決は極めて難しいといわざるを得ません。
架空請求詐欺などの場合は、犯人の素性が分からないので、民事訴訟が使えないのです。
2.訴訟で勝てるかどうかわからない
詐欺の被害に遭ったという人の多くは、自分が詐欺の被害に遭ったという事実を確信し、必ず自分は被害者として、裁判所に認めてもらえるであろうという確信をもっています。しかし、よくよく話を聞いてみると、実はそもそも詐欺の被害にあったといえるのかどうかさえ微妙な事案も少なくありません。
例えば、信用したというお話の内容が、不確定な事実を前提とした出資話である場合などは、約束をした配当がなかったとしても、詐欺が成立するとは限りません。詐欺という犯罪は、当初から騙すつもりがなければ成立しないからです。「最初は儲けさせるつもりだったのですが、後から事情が変わってお金が返せなくなってしまったのです」という言い逃れができてしまう状態であると、詐欺という形で法的責任を問うことは容易ではありません。
また、ときどき、貸したお金が返ってこないことについても、債務者を「詐欺師」であるので告訴してほしいという人もいますが、借りたお金を返さないということは、消費貸借契約という契約の債務不履行であるということできても、お金を借りた行為を詐欺であるということはできません。
さらに、明らかな嘘をついていた場合であっても、そのような嘘をついたということが被害者の側で立証ができなければ裁判所は詐欺行為があったと認定することができません。証拠がなければ裁判所は争いのある事実を認定することができないからです。このように証拠に基づき裁判をすることを証拠裁判主義といいます。もし、当事者の一方が詐欺だというだけで詐欺が認定されてしまうのであれば世の中大変なことになってしまいます。そのため、証拠裁判主義は、適正な裁判という観点からすればごく当然の原則なのですが、なんら証拠を持っていない詐欺の被害者にとっては非常に不利に働くことがあります。
3.詐欺犯人に資力があるとは限らない
また上記の要素をクリアできたとしても、肝心の詐欺犯人がお金を持っていなければどうすることもできません。民事訴訟を起こして勝訴判決をとったとしても、裁判所がお金をくれるわけではないからです。ときどき民事判決を取れば裁判所がお金を払ってくれると誤解している人がいますがそのようなことはありません。裁判所からの勝訴判決があれば強制執行という国家権力を発動して回収手続を行うことはできますが、この時点で債務者にお金がなければ回収は困難です。判決を取っても裁判所がお金を出してくれるわけではないので、民事訴訟を起こすにあたっては、詐欺犯人の資力をよくよく検討しなければなりません。
4.まとめ
以上のように、特別な理由がない限り、のんびり民事訴訟を続けていては、詐欺犯人からお金を取り戻すことはできません。そのため、詐欺被害にあったという証拠があるのであれば、警察に被害届又は告訴状を提出し、犯人を逮捕してもらうことが最も合理的な手段であると思います。犯人が逮捕され手刑事訴訟手続が開始されれば、犯人は被害者であるあなたとの間で示談が成立することを切に望みますので、たとえ自分はお金を持っていなかったとしても、家族や友人から借りるなどして全力で賠償金を用意するはずだからです。警察が動き出して犯人が逮捕されても被害弁償がなかったとすれば、それは本当にお金がない状態である可能性が高いので、被害弁償については相当に難しいと覚悟しなければならないでしょう。
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