架空請求詐欺が起こるまで

2019年3月8日

1.増加し続ける詐欺被害

現在、日本全国で架空請求被害が出ています。毎日のように新聞やテレビで架空請求詐欺被害が報道されていますが、被害は増加し続けています。


架空請求とは、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金等をだまし取る、いわゆる「特殊詐欺」の一態様です。

基本的に、事実に基づかないはがきや請求書を一方的に送付して、これに反応した受領者に対してお金を振り込むように誘導する詐欺の形態です。


1-1. 被害の実態について

警視庁の平成31年4月時点での特殊詐欺事件の認知件数は、こちらのリンクの通りです。

これは、あくまで警察庁の認知した件数ですので、被害にあっても警察に申告しないケースが相当存在すると推定されることやそもそも被害にあったことを認識していない被害者もいると思われることからすると、実際にはこの数倍の被害が出ていると思われます。


架空請求は10年以上前から続く犯罪ですが、いまだに続いているのは、このように多額の被害=犯罪者の莫大な利益という事情があるためです。


2.架空請求詐欺の被害者

架空請求の被害の実際の件数は上記のとおり、正確にはわかりませんが、被害にあっている人を分析すると以下のような実態があります。


2-1.圧倒的多数の被害者は高齢者

架空請求詐欺の被害者の圧倒的多数は、高齢者です。以下のデータは埼玉県警が公表しているデータですが、被害者のうち65歳以上が約87パーセント、そしての被害者の79.8パーセントが女性です。

なぜ高齢者が被害にあうのかについては以下のような事情が考えられます


架空請求犯罪情報を知らない

高齢者の方の場合、ネット世代のように日々様々な情報に接している人が多くはありません。また、日常生活の中で話をする人もそれほど多くはないことが多いために、接する情報は限られています。この結果、架空請求詐欺が現在多発しているという事実を知らず、架空請求のはがき等を受け取ってパニックになってしまう場合があります


判断能力が低下している

高齢になると人間は徐々に判断能力が衰え、場合によってはアルツハイマー病などの判断能力に影響を及ぼすような疾患を患う場合があります。このような状態の高齢者は、自分の置かれている状況を理解することができなかったり、話の内容が常識的にありうることであるのかどうか、事の真偽を判断することができず、言われるがままに行動をしてしまう場合があります。


相談相手や話し相手がいない

現在の日本では急速に高齢化が進んでいますが、同時に個人の生活態様も著しく変化しています。これまでは、高齢者が単独で暮らしているというケースはそれほど多くはありませんでしたが、現在、「おひとり様」老人がたくさんいます。

家族がいないという状態ではなくても、昔に比べれて転勤が多く、子供はいるが同居はしていないという高齢者が多数存在します。このような高齢者の場合、一般に架空請求を受けた時に相談する相手がいないために騙されやすい傾向があります。


脅迫や威迫に慣れていない

ネット世代はインターネット上で日々たくさんの記事やブログを目にしており、その過程で様々な表現に接しています。それらの表現は、人を非難したり責任を追及するなど過激なものが少なくありません。そのため、若い世代は、このような非日常的な表現や言葉遣いに日々接しており、過激な言葉に免疫があるといえます。

 ところが、架空請求のターゲットになるような高齢者の多くは、それまでまじめに生活をしてきた人がほとんどです。料金の滞納をしたこともなければ税金を滞納したこともありません。そのため、架空請求に書かれているような差し押さえや犯罪等の言葉に過剰に反応してパニックに陥り、正常な判断能力を失ってしまう場合があるのです。


2-2.被害金額について

被害金額は数百万円から数千万円、場合によっては億近い金額がだまし取られる場合があるようです。このように被害額が多くなるのは、比較的貯蓄のある高齢者層が被害者層となっているためと思われます。


2-3.架空請求詐欺は騙されたら回復は極めて困難

架空請求詐欺の被害にあった場合、直ちに警察に被害申告をして口座凍結に成功した場合などを除けば、一般的にいって、被害金額を全部回復することは「極めて困難」 であると言わざるを得ません。

架空請求詐欺グループは自分たちのしていることが犯罪であるとわかっているので、警察の捜査の手が迫っているということを常に意識しています。そのため、被害者がお金を振り込んだり、現金を犯罪グループの手の者に渡した直後にそのお金を移動させて、取り戻すことができないようにするのです。その引き出し、移動の手順は、予め周到に準備されていますから、警察への被害申告、刑事告訴が遅れれば遅れるほど、被害回復の可能性は著しく減少していきます。

ただし、だからといって架空請求詐欺の被害にあっていながら、「どうせ無駄だから」となにもしないでよいということにはまったくなりません。確かに被害申告が遅れれば回復は難しくなるということは事実ですが、あなた以外の被害者が先に警察に被害申告をしたなどの事情で口座が凍結されていたり、警察の捜査を受けていたということもありうるのです。

最近では被害者に迅速にお金を返還するための法律制度の整備もされていますから(振り込め詐欺救済法)、被害にあったならば、泣き寝入りをせず、必ず警察に被害申告をしてください。


3.架空請求詐欺の二次被害

上記のとおり、架空請求詐欺の被害にあった場合に、被害金を取り戻すことは容易ではありませんが、この手続について「絶対に回収できる」などと宣伝して、「着手金」「調査金」などの名目で不当にお金をだまし取る業者が存在します。

しかし、このような業者のうたい文句はまず詐欺であると考えて間違いありません。上記のような架空請求の手口から、また常識的に考えても、犯罪グループから「絶対にお金を取り戻す」ことを約束することなどできるはずがありませんから、このようなことを約束している時点で嘘をついているといえるからです。

架空請求被害に遭う方は、実は、「自分だけは騙されない」と信じていたという人が多いです。そのようなタイプの人は、騙されたことが分かっても、またまた自分の判断で自分の間違いを取り戻そうとする傾向があります。

そのため、周りの人が強くいさめても、相当に強く警告しても、結局、このような「絶対にお金を取り戻す」などという極めて胡散臭い話を信じ、あるいは信じようと自分自身を説得してしまい、お金を支払い、またまた被害にあうということがあるのです。

このようなことにならないように、架空請求の詐欺にあった場合には、警察あるいは法律問題を扱う国家資格をもつ弁護士に相談をするべきです。


3-1.二次被害は恐ろしい

架空請求詐欺にあってしまった人は、自分が被害にあったという事実を公にすることを嫌がります。世間で騒がれている架空請求にまんまと騙されてしまったという事実をほかの人に知られることをとても恥ずかしく思っているのです。

また、自分の老後のたくわえを失った場合や家族のお金を使いこんでしまった場合などは、被害にあった自分自身にあきれて自暴自棄になったり、精神的に落ち込んで鬱になったりすることがあります。ひどい場合には自殺に追い込まれてしまう場合すらあります。


4.架空請求詐欺の三次被害

 架空請求の被害者は、犯人グループにも怒りを覚えていますが、それ以上に自分自身の不甲斐なさを責めている場合が少なくありません。

このような状態の被害者に対して、その家族が「どうしてそんな話に騙されたのだ」などと責任を追及するような態度をとってしまうと、被害者の心情をさらに悪化させ、上記のような被害者の悲劇を招くきっかけとなりかねません。

ですから、被害が発覚した場合であっても、家族は、被害者の被害の事実をきちんと受け止めたうえで、なぜそのような被害にあったのか、これから似たような被害に遭わないようにするためにはどうしたらよいのかをしっかりと話し合う必要があります。


5.相談窓口

架空請求の詐欺の被害に遭った場合の相談窓口は以下のようなものがあります。

警察

弁護士会

法テラス

弁護士事務所

行政

 これ以外にも被害に遭った方の精神的ケアを考えれば、メンタルクリニックなども検討をするべきでしょう。


6. 架空請求詐欺対策

架空請求詐欺に遭わないためにはどうすればいいのでしょうか


6-1. 家族と頻繁に連絡を取り合う

 架空請求詐欺は、受け取りての心理を利用してその判断能力を失わせることを主な手口とする手法です。そのため、冷静に考えれば、ありえない内容の請求であることが分かるものがほとんどです。

そのため、受け取った本人が直ちに判断ができない場合であっても、家族やほかの人に相談をすれば、騙される危険は大幅に低下します。


6-2. セミナーを受ける

 消費者被害などに関する行政主催のセミナーや勉強会に参加することで架空請求被害に関する知識をつけることができます。このような機会があった人であれば架空請求の被害に遭う可能性は大幅に減少することでしょう。

ただし、上記のとおり、架空請求の被害に遭う人の多くは「自分は絶対に被害に遭わな  い」と信じているタイプの人が多いため、このようなセミナー等に参加したがらないという問題があります。


6-3. 架空請求判定アプリに友達登録しておく

リーガルテック株式会社の架空請求判定アプリ「ScamDetector」をいれておくことで架空請求が来ても大丈夫という精神的余裕が生まれます。このことで、架空請求被害者が陥りがちなパニックによる判断力低下のリスクが減り、詐欺被害を回避することができます。

7.まとめ

  • 架空請求は高齢者の女性が多数である。
  • 被害者の多くは「自分は騙されない」と信じている自信過剰な人。
  • いったん詐欺にあってしまたら回復は困難。予防が重要。
  • 架空請求の被害者は二次被害にあることがある。
  • 架空請求被害に遭わないためには普段から準備、特に家族の関係が重要。

架空請求・詐欺情報サイト Scam Detector Search

架空請求・詐欺情報サイトScamDetectorSearchは国内外の架空請求・詐欺に関する情報を集約したサイトです。ここでは、架空請求判定アプリScamDetectorに寄せられた情報や独自に入手した特殊詐欺に関す情報を公開して潜在的な被害者に注意を促すとともに既に被害にあった方やその家族、関係者に対しても有益な情報を提供することを目的としています。また、サイトでは情報の提供も受け付けています。