被害の絶えないオレオレ詐欺などの特殊詐欺ですが、これらの犯罪では、犯罪グループは、被害者に最初にアプローチをする情報源である名簿を利用しています。このように犯罪グループに利用される名簿とはいったいどのようなものなのでしょうか?
1.名簿業者から入手した名簿
架空請求のはがきを受け取った方々からは、「自分はもうずいぶん前に引っ越しをしているのに昔の住所でハガキが届いた」「亡くなった祖母に宛てて架空請求はがきが届いた」などの声が寄せられています。このことから、加害者グループの利用している名簿の中には、相当に情報としての鮮度を欠いているものが含まれていることが推測されます。
その情報の出所を探っていくと、どうやら、それらの個人情報は、2003年に施行された個人情報補保護法の施行前に名簿業者に出回ったのものが多いようです。同法律の施行により、個人情報の管理が厳しくなったため、出回っている名簿の情報は、同法の施行前であると予想されます。詐欺グループは、名簿業者から入手した昔の情報をもとにして、詐欺に利用しているのです。
また、詐欺業者にとって名簿は詐欺が成功するかどうかに大きくかかわる重要な要素であることから、近年、名簿が多様化・精密化している傾向があります。詐欺に利用する名簿情報だけを独立して収集しているグループも存在しており、このようなグループは、他に転売するために様々な手法で日々個人情報を収集しています。架空請求業者は、より騙しやすい被害者が多いと思われる名簿のために、従来よりも時間と労力を費やしています。
例えば、過去に詐欺被害に遭ったことのある被害者の個人情報は、詐欺行為に対する判断力の低い「騙しやすい」相手ですので、詐欺業者にとっては非常に有益です。このような名簿は、俗に「ヤラレ名簿」と呼ばれ、高値で取引されているようです。
2.卒業アルバム
わが国では義務教育を受けた多くの人が卒業時に卒業アルバムを作成する習慣があります。そして、この卒業アルバムには、学校生活の情報だけではなく、生徒の家族や家庭環境に関する情報が含まれている場合も少なくありません。卒業アルバムに掲載されている本人は比較的若い人であるために、この本人に接触をしても詐欺が成功する可能性は必ずしも高くありません。しかし、標的を変えて、卒業アルバムに掲載されている生徒の両親や祖父母をターゲットにした場合、卒業アルバムに記載されている情報は極めて有用な資料になりえます。なぜならば、例えばオレオレ詐欺などの詐欺行為を働く場合に、卒業アルバムに載っている個人情報を把握していれば、被害者の信用を得やすくなり、詐欺行為が成功する可能性が飛躍的に高まるであろうことは明らかだからです。
実際に、2017 年 4 月に警視庁がさいたま市の詐欺グループのアジトを摘発した事案では,実に7万人分の個人情報が記載された高校の卒業名簿などが押収されているますが、そこでは,被害者の息子を騙る典型的なオレオレ詐欺が行われていたことが報告されています(日本弁護士連合会第61会人権擁護大会シンポジウム資料)。
3.会員情報等
詐欺行為にはインターネット上で流通している個人情報も利用されています。もっとも典型的なものは、アダルトサイトの会員情報です。
まず、アダルトサイト等のサイト運営者は、当該サイトのヌード画像等の閲覧、視聴を許す代わりに個人情報の提供を求めます。
個人情報の提供を受けると、運営者は、アダルトサイトに会員登録をした人や閲覧利用した人の個人情報を第三者に転売します。
個人情報を入手した第三者は、当該名簿に記載されている個人に対して、アダルトサイトを利用したことを理由に法外な料金を請求したり、あるいは、全く関係のない請求をして、被害者からお金をだまし取ろうとします。もっとも、アダルトサイトの名簿については、利用者の側もサイト利用について自覚があることから、全く根の葉もない請求のために利用されることよりも、脅迫をともなう詐欺請求に利用されることが多いようです。
4.まとめ
現代の情報化社会では、自分や家族の個人情報を完璧にコントロールすることは不可能です。そのため、詐欺グループのような犯罪集団に利用される可能性があるということを考えた上で、個人情報を管理し、詐欺グループから接触を受けた場合であっても、これを見極めるだけの判断力がなければならないのです。
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